色々な慢性疾患の治療2

狭心症

心臓は全身へ血液を送り出すポンプの働きをする臓器である。狭心症は心臓を栄養している動脈が狭窄することによって起こり、心筋への酸素が不足する状態をいう。心臓に酸素が不足すると、前胸部の疼痛が起こり、狭心痛と呼ばれる症状が出現する。狭心症の通常の症状は、胸部の「重苦しさ」「圧迫感」「しめつけられる感じ」「押さえつけられる感じ」「灼熱感」「鈍痛」などと表現されることがある。狭心痛の持続時間は通常3から5分である。普通、この症状は労作によって引き起こされ、安静によって改善する。また、怒り、恐怖、興奮、ストレスなどによっても引き起こされることがある。例外として安静時に生ずる狭心症もあり、異型狭心症と呼ばれている。狭心症の病理学的原因は、心臓を栄養している冠動脈の狭窄であり、狭心症の治療は安静と危険因子の治療、血管拡張薬の投与である。狭心症の危険因子としては、高血圧症、肥満、糖尿病、高脂血症、喫煙、ストレスなどであり、これらを治療することが大変に重要である。なお、冠動脈が完全に閉塞した状態を心筋梗塞という。

狭心症の検査として次のようなものがある。

心電図:心臓は電気仕掛けで動くポンプであるから、心臓が発生する電気信号を分析することによって、心臓の病気を診断することができる。狭心症には特徴的な心電図波形を呈する場合もあるが、異常を示さないこともある。そのために、運動負荷心電図や24時間ホルター心電図を行なう。

超音波検査:心臓の動きや弁の状態を調べることができる。

心臓シンチグラム:心筋に集積する性質のあるアイソトープを静脈注射して、心筋への集積像を解析するものである。

心臓カテーテル検査(冠動脈造影検査):冠動脈の入り口にカテーテルという管を通し、そこから造影剤を流して冠動脈の狭窄の程度を検査する。危険性のある検査である。

現代医学的な薬物治療:ニトログリセリン、ニトロール、シグマート、カルシウム拮抗薬などの血管拡張薬が主なものである。これらの血管拡張薬には、頭痛などの副作用がある。

狭心症に治療として、まず現代医学的な治療がなされるべきであり、現代医学的な治療と併用して漢方治療を考慮すべきである。通常の狭心症は現代医学的な治療のみでコントロール可能であるが、西洋薬を限度まで用いても、狭心痛がコントロールできないとか、亜硝酸剤に対して血液学的副作用が出現したりして、使用できないとかの場合に漢方治療を考えるべきである。実際の狭心症に対する漢方薬としては、体力がある場合(実証)は、第一選択として〓楼薤白白酒湯を用いる。〓血の関与する狭心症には、冠心Ⅱ号方を用いる。あるいは桂枝茯苓丸で代用してもよい。体力がない場合(虚証)は、冷え症で上腹部、胸、背に冷感のある狭心症には、当帰湯を用いる。冷え症で、下痢などの症状を有する者は真武湯を用いる。

狭心症に対する漢方薬

体力がある場合(実証)

・カロウ薤白白酒湯・通常の狭心症において第一選択に用いる。

・冠心Ⅱ号方・お血の関与する狭心症に主に用いる。

体力がない場合(虚証)

・当帰湯・冷え症で上腹部、胸、背に冷感のある狭心症に用いる。

・真武湯・冷え症で、下痢などの症状を有する者に用いる。

〔症例〕75歳の狭心症の女性。労作時呼吸困難、胸痛を主訴として来院した。 最近、約100メートル位を歩行すると、呼吸困難と胸痛が出現し、安静にすると楽になるという症状が出現した。精密検査をして労作性狭心症と診断した。現代医学的薬物治療を大量に投与した。しかし、労作時の胸痛が頻回に起こり、ニトログリセリンを1 日10 錠舌下服用することもあるという。何とか、胸痛を軽減することはできないものかと考え、患者および家族の了解を得て現代医薬に併用して、カロウ薤白白酒湯を投与することにした。カロウ楼薤白白酒湯を投与して一週間後来院した。この一週間で、ほとんど胸痛がなくなり、ニトログリセリンをほとんど服用する必要がなくなったと言う。この患者は約4年間、カロウ薤白白酒湯を服用して良好な経過であった。筆者の転勤のためその後の経過は不明である 。

漢方薬を服用する時も、現代医学の薬は止めることなく、そのまま服用する様に指導する。カロウ薤白白酒湯は狭心症に大変効果のある漢方薬である。薬が効く場合は、薬の効果は1~2週間で見られることが多く、胸痛は明らかに改善する。煎薬のみであり、エキスはない。薬の作り方は、他の薬とは少しことなり、「カロウニン4、薤白8、日本酒200、水200を半分に煎じて、3回に分けて服用する」というものである。日本酒200ccが含まれているが、加熱するため、アルコール分は飛んでしまい、甘みが残るだけとなる。酒を飲めない方も通常は服用可能である。日本酒は、安い清酒でよい。薤白は「らっきょう」を乾燥したものであり、『本草備要』にも「胸痛に効果がある」と記載されている。ただし、薤白は保険適応外である。食事の時、「らっきょう」の甘酢づけを1日3個位食べるとよいと経験的に説明している。しかし、「らっきょう」が狭心症に対して良いという科学的な証拠はない。

〔注〕カロウ薤白白酒湯(カロウニン4、薤白8、日本酒200、水200を半分に煎じる)

冠心Ⅱ号方(芍薬5、川きゅう5、紅花4、丹参8、降香4)

〔注〕薤白、丹参、降香は保険適応外である。