色々な慢性疾患の治療

気管支喘息

気管支喘息は、発作性に気管支が収縮するために、呼吸困難、喘鳴がおこる疾患である。 気管支というのは、口から肺へと続く空気の通り道で、この空気の通り道が狭くなるために、空気(酸素)を十分に体内へ取り入れることができなくなって、息をするのが苦しくなる。気管支喘息の有病率は全人口の1~4%を占め、呼吸器疾患の中で最も多い疾患の一つである。気管支喘息の原因は、アレルギー性の慢性の炎症によって起こるとされている。発作がない時には、全く健康人と変わらない生活を送ることができるが、発作の時の症状としては、呼吸困難、喘鳴、咳、痰がみられ、重症になると起坐呼吸(苦しくて横になることができない状態)やチアノーゼ(血中の酸素不足のために皮膚の色が紫色になります)を呈する場合がある。そして、入院治療が必要になる場合もある。西洋医学的治療では炎症を抑えるための抗炎症薬としてステロイド剤(プレドニン)と抗アレルギー薬(オノンなど)が用いられる。また、気管支拡張薬としてテオドール、メプチン、ホクナリン等さまざまな薬剤が用いられる。重篤な発作の時には、入院して、気管支拡張薬、大量のステロイド薬の投与や適切な呼吸管理が必要となる。

非発作時には、西洋医学的治療と併用して漢方薬を用いると有効な場合がある。非発作時の漢方医学的治療では抗炎症薬としての意味で柴朴湯が広く用いられている。柴朴湯には抗原(アレルギーの原因となる物質)によって活性化されたリンパ球に対する抑制効果やステロイドの使用を減らす節減作用やステロイド様作用があることが証明されており、ステロイド依存性の気管支喘息に対して有用な薬剤であると言える。また、軽症、中等症の喘息発作に対しては漢方薬を用いてよい場合がある。発作時、非発作時ともに西洋医学的治療薬である抗炎症薬や気管支拡張薬と漢方薬を併用するとより容易に気管支喘息の治療が可能となる場合がある。

養生としては、規則正しい生活と発作の誘因を把握し避けることが大切である。日常生活では、喫煙や感冒などの感染症にかかることは、気管支喘息を悪化させるので、禁煙に心がけ、疲労をためたりや睡眠不足をしないように十分な休養と睡眠が大切である。また、運動後に喘息発作が起こる運動誘発性喘息という疾患があるが、発作を起こしかけている時には運動は避けるようにする。非発作時の運動として適しているのは水泳である。妊娠によって、気管支喘息が悪化することは少ないと言われているが、出産後に喘息発作は、比較的多く出現する。また、月経前に気管支喘息が悪化することはよくみられる。

〔服薬上の注意〕                              

発作の時は、麻黄剤の麻杏甘石湯(煎薬では麻黄甘草湯)を用いて治療するのが原則である。非発作時にも、小青竜湯や神秘湯、麻杏甘石湯などの麻黄剤が多用される。麻黄はエフェドリンを含有し、解熱、鎮咳、抗炎症作用がある。麻黄の副作用としては、血圧上昇、頻脈、排尿障害などがあるので、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患には使用禁忌であり、高齢者や高血圧症の患者には慎重に使用すべきである。また、胃腸虚弱の患者に使用すると、食欲不振や腹痛を引き起こすことがあるので注意が必要である。しかし、一方では小児においては、麻黄剤は比較的安心して用いることができる。

非発作時に用いる漢方薬としては、体力がある場合(実証)、体力がふつうの場合(中間証)、体力がない場合(虚証)に分けて用いる。体力がある場合(実証)は、発汗、口渇がある時は麻杏甘石湯が、心下部から季肋部にかけて抵抗感があり、精神的な誘因があれば、大柴胡湯合半夏厚朴湯を用いる。体力がふつうの場合(中間証)、柴朴湯は第一選択薬として用いられる。小青竜湯ば泡沫状の痰がよく出る気管支喘息に用いられる。神秘湯は柴朴湯と麻黄湯を合方した処方内容に似ていて、小児に用いられることが多い。3)体力がない場合(虚証)は、自汗傾向がある時は桂枝加厚朴杏仁湯を用い、胃腸虚弱の場合には苓甘姜味辛夏仁湯を用い、月経が関係する場合には、当帰芍薬散を用いる。なお、世界で最も権威ある小児科学書の『ネルソン小児科学』の最新版(2004年版)にはハーブメディスンの章の中に、気管支喘息治療薬として柴朴湯、神秘湯が記載されている。

麻黄の主な作用

解熱作用

鎮咳作用

抗炎症作用

麻黄の主な副作用

血圧上昇

頻脈

排尿障害

Ⅰ.気管支喘息に用いられる漢方薬で麻黄を含むもの

麻杏甘石湯

小青竜湯

神秘湯

Ⅱ.気管支喘息に用いられる漢方薬で麻黄を含まないもの

大柴胡湯合半夏厚朴湯

柴朴湯

桂枝加厚朴杏仁湯

苓甘姜味辛夏仁湯

当帰芍薬散

気管支喘息に用いられる漢方薬

非発作時の薬

1)体力がある場合(実証)

麻杏甘石湯・発汗、口渇がある場合によく用いる。小柴胡湯と合方すると効果的である。

大柴胡湯合半夏厚朴湯・柴朴湯と同様の抗炎症作用がある。

2)体力がふつうの場合(中間証)

柴朴湯・柴胡を含む方剤で、非発作時の漢方薬として第一選択薬で用いる。

小青竜湯・泡沫状の痰がよく出る気管支喘息に用いる。

神秘湯・柴朴湯と麻黄湯を合方した処方内容に似ていて、小児に用いる。

3)体力がない場合(虚証)

桂枝加厚朴杏仁湯・自汗傾向があり、体質の弱い気管支喘息の患者によい。

苓甘姜味辛夏仁湯・小青竜湯証に似ているが、胃腸虚弱の場合に用いる。

当帰芍薬散・月経が関係する場合に用いる。

発作時の薬

麻杏甘石湯・発作時の第一選択薬として用いる。

〔症例〕22歳、女学生。気管支喘息の漢方治療を希望して来院。4歳頃から気管支喘息。時々、喘息発作が起こる状態であり、最近の数年間は、月経の前後に喘息発作が起こることが多い。時々、頭痛やめまいがあり、風邪をひきやすく、冷え症である。月経は不順で、月経痛がある。199X年5月、漢方治療を求めて来院した。色白で小柄。脈は沈、細で、腹部は軟弱で左下腹部の処に圧痛点があった。当帰芍薬散(煎薬)を処方して、1か月半の間服薬して、月経痛は改善し、喘息発作も出現しなくなった。その後も良好な経過である。

〔本例の服薬指導〕当帰芍薬散(煎薬)が処方されていることから、虚証で、気、血、水の中で、血に異常があると考える。患者に質問して、月経に関係する気管支喘息の発作であることが分かれば処方の意味は了解される。冷え症の患者であり、衣服を考えて身体を冷やさないようにする。身体を冷やす食物、例えば梨、西瓜、バナナなどの果実や生野菜はできるだけ控え、野菜は火を通した温野菜とする。漢方薬は必ず温かい状態で服用するよう説明する。