色々な慢性疾患の治療

胃炎・胃潰瘍

胃炎はさまざまな原因で起こることが知られている。たとえば、食品(アルコール、コーヒー、香辛類、冷たい食品)、薬剤(アスピリン、消炎鎮痛剤などの痛み止め、抗生物質、鉄剤)、異物(魚骨、内視鏡)、寄生虫などが従来、原因として言われてきた。1983年、オーストラリアのワレンとマーシャルによって、胃の中で感染しているピロリ菌が発見され、その後、胃炎の80%の成因はピロリ菌であることが判明し、現在ピロリ菌は胃炎、胃・十二指潰瘍、胃ガン、胃リンパ腫などの疾患に深く関与していることがわかっている。胃炎の主な症状は、心窩部痛(みぞおちの痛み)、悪心、嘔吐、食欲不振などである。吐血、下血をみることもあります。

胃潰瘍は胃粘膜に生じた限局性の欠損、すなわち胃粘膜が、火山の噴火口の様に、えぐられてしまう状態である。症状は食事と関係があり、食後に心窩部(みぞおち)が痛むことが多く、腹部膨満感、重圧感、悪心、嘔吐、食欲不振、背部痛、吐血、下血などの症状も見られる。原因としては、胃の粘膜の攻撃しようとするもの(攻撃因子)と胃の粘膜を守ろうとするもの(防御因子)のバランスが崩れることによって潰瘍が発生すると考えられている。攻撃因子には、塩酸、ペプシン(たんぱく分解酵素)などがあり、防御因子としては、粘液分泌、重炭酸分泌、プロスタグランディンなどがある。ストレスなども一つの攻撃因子であり、最近では、ピロリ菌が重要な原因であると考えられている。

西洋医学的治療:原因の除去と薬剤の投与により対症療法を行う。胃炎には、胃粘膜保護剤とH2ブロッカー(胃酸の分泌を抑制する作用がある)が用いられる。胃潰瘍では、さらにプロトンポンプインヒビター(強力に胃酸の分泌を抑制する作用がある)が用いられる。

・胃粘膜保護剤(セルベックス、アルサルミン)-胃の粘膜を保護する薬である。

・H2ブロッカー(ザンタックなど)-胃の壁細胞のH2受容体に結合して、夜間の胃酸分泌を抑制して、胃炎や潰瘍を治療する。

・プロトンポンプインヒビター(オメプラゾールなど):胃酸分泌の最終段階であるプロトンポンプと結合して、胃酸の分泌を長時間にわたって抑制する。このプロトンポンプインヒビターと抗生物質を併用してピロリ菌の除菌療法が行われている。

食事療法:胃炎の原因となる食品を避けるようにする。例えば、アルコール、濃いコーヒー、強い香辛料、冷たい食品などは控え、刺激物を食べないことが重要である。再発することも多く治療に難渋することもある。このような患者さんに、漢方薬を服用していただくと再発が少ないことをしばしば経験する。

〔服薬上の注意〕

胃炎、胃潰瘍に多く用いられる漢方薬としては黄連を含む漢方薬である。黄連は、黄連解毒湯、半夏瀉心湯、黄連湯、清熱解鬱湯などの処方に含まれている。黄連の主成分はベルベリンであり、健胃整腸作用がある。黄連は清代の薬物書『本草備要』によると、「大苦、大寒」という薬能があり、身体を冷やす効果がある。虚弱で冷え症の患者に用いると病状を悪化させる。体力がある場合(実証)には、のぼせの症状や胃部痛がある時には、黄連解毒湯を用いる。体力ふつうの場合(中間証)には、胃のあたりのつかえと腹鳴の時には、半夏瀉心湯を用いる。胃部痛や心下痞硬と食欲不振があれば、黄連湯を用い、胸脇苦満と腹皮拘急がある時には、柴胡桂枝湯を用いる。疼痛のある時の第一選択薬として、清熱解鬱湯(煎薬)がある。体力がない場合(虚証)には、胃部痛、むねやけがある時には、安中散が用いられ、心下部が痞え、食欲不振や軽い胃痛のあるものには、香砂六君子湯(煎薬)を用いる。胃のもたれ、食欲不振のあるものには、六君子湯を用いる。

胃炎・胃潰瘍に対する漢方薬

1)体力がある場合(実証)

・黄連解毒湯・のぼせの症状や胃部痛がある時に用いる。

2)体力ふつうの場合(中間証)

・半夏瀉心湯・胃のあたりのつかえと腹鳴の時に用いる。

・黄連湯・胃部痛や心下痞硬と食欲不振が目標である。

・柴胡桂枝湯・胸脇苦満と腹皮拘急がある時用いる

煎薬で用いる時は茴香牡蠣を加味する。

・清熱解鬱湯・疼痛のある時の第一選択薬である。

3)体力がない場合(虚証)

・安中散・胃部痛、むねやけがある時に用いる。

・香砂六君子湯・心下部が痞え、食欲不振や軽い胃痛のあるものに用いる。

・六君子湯・胃のもたれ、食欲不振のあるものに用いる。

〔実例〕安中散の症例。66歳、女、1989年7月5日初診。

空腹になると腹が痛む、お腹がごろごろ鳴るという訴えで来院した。いつもセンブリを飲んでいるという。脈は沈細、腹部は陥凹して、軟弱であり、臍傍の左側に動悸を触れる。血圧160/70、胃透視では胃下垂、慢性胃炎の所見である。安中散エキス7・5グラムを処方して、2週間後に来院して、ほとんどの症状は消失した。現在まで約8年服用しているが良好な経過である。

〔本例の服薬指導〕安中散が処方されており、虚証の胃炎である。冷え症もある。食事は腹八分を守り、身体を冷やす食物、例えば梨、西瓜、バナナなどの果実や生野菜はできるだけ控え、野菜は火を通した温野菜とする。漢方薬は必ず温かい状態で服用するよう説明する。

〔注〕清熱解鬱湯(煎薬)(梔子3、蒼朮3、川?2、香附子2、陳皮2、黄連1、甘草1、枳殻1、乾姜0.5、生姜0.5)

香砂六君子湯(煎薬)(人参3、白朮3、茯苓3、半夏3、陳皮2、大棗1.5、生姜1、甘草1、縮砂1、?香1)