色々な慢性疾患の治療

肥満症

大昔、ヒトは食物を継続的に得られない環境で、生活していた。生きていくためには、摂取した食物を体内にエネルギーとして貯蔵する仕組みが必要であった。そこで、中性脂肪として、余ったエネルギーを蓄え、体が必要な時に遊離脂肪酸としてエネルギーを放出し、飢餓の状態でも生き抜くように合目的な仕組みが出来上がった。ところが、現代社会では、このような人体の機能は栄養過多や運動不足により、脂肪が体内に溜まり過ぎて、かえって健康の悪化を招いてしまった。

肥満とは脂肪が体内に過剰に蓄積した状態で、太りすぎとほぼ同じ意味と考えられているが、国際的には、BMI(Body Mass Index)という肥満指数で厳密に定義されている。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で除した値のことで、25以上を肥満と言っている。また、ウエスト周囲径が男性85cm、女性90cm以上になると内蔵に脂肪が多量に蓄積されるようになる。平成12年の国民栄養調査結果によると、BMIが25以上の肥満の人の頻度は、20歳以上では、男性は約27%、女性は約21%である。成人男性の4分の1の人が肥満であるという結果であった。肥満を放置すると、糖尿病、高脂血症、高血圧症、狭心症、心筋梗塞症、脂肪肝、呼吸不全(睡眠時無呼吸症候群など)などを併発し、生命にとって重大な事件が発生する可能性が高まる。肥満の原因としては、過食、摂食パターンの異常、運動不足、遺伝などがある。どうして過食になるかというと、食べても食べても満腹感が得られなかったり、ストレス解消のための「気晴らし食い」や目の前の食物につい手が伸びてしまう「衝動食い」など食行動の異常が背景にあると考えられる。摂食パターンの異常については、夜間に食事を摂取すると、夜間は副交感神経系が優位になるため消化管の機能が高まり、食物の消化吸収がよくなる。その結果、摂取した食物が脂肪として体内に貯蔵されやすくなる。そして、運動不足により、消費するエネルギーが減少して体内の脂肪が増加する。

肥満症の治療には、①食事療法、②行動療法、③運動療法、④薬物療法、⑤漢方療法がある。 

①食事療法・摂取するエネルギーを少なくすることは、肥満症治療の基本である。摂取するエネルギーが少なく、消費するエネルギーが多くなれば、体内の脂肪が燃焼して、脂肪組織が減少する。一日約1300キロカロリーの食事が基本となる。夕食のごはんの量を減らすとか、あまり遅い時間には食事を摂らないことが大切である。また、よく咀嚼することが大切で、肥満症患者の大多数は「早食い」である。「早食い」をすると満腹感が得られず、過食の原因になる。一口30回噛む食事をすると咀嚼時間が長くなり、食物本来の歯ごたえを感じられ、満腹感が得られるようになる。   

②行動療法・食事の記録や、体重の記録をつけて食事の摂取、運動などの規則的な習慣の獲得や、体重増加の原因を自ら知ることによって、治療の動機づけを行なう。

③運動療法・運動によりエネルギーを消費し、体重を減少させる治療ですが、運動だけでは、体重はあまり減少しない。しかし、運動療法は狭心症や高血圧症に対しては、たいへん有用なもので、明らかに改善効果がある。  

④薬物療法・食欲を抑制する薬物として、サノレックスがあり、食事療法の補助として用いられる。

⑤漢方療法は体にとって有害なもの、余分なものを体外へ出すという治療が基本の考え方である。

養生としては、腹七分を守り、規則正しい生活と食事を感謝の念をもって摂るようにするとよい。また、ストレスを溜めないようにすることも大切である。

〔服薬上の注意〕

肥満の治療に用いられる大柴胡湯は、体力のある場合として服用した場合も下痢する場合があり、また柴胡の副作用として、間質性肺炎がみられるので、咳や息切れが出現したら注意が必要である。防風通聖散も下痢に注意が必要である。体力のある場合[実証]に、季肋部に抵抗感があり腹部の充実した者には、大柴胡湯を用いる。太鼓腹で便秘があり肥満のある者には、防風通聖散を用いる。体力ふつうの場合[実証]には、月経不順、のぼせ、?血の症状のある者には、桂枝茯苓丸を用いる。のぼせ、?血の症状のある場合に用いる。体力のない場合[虚証]に、色白で、皮膚が水っぽいタイプの肥満症には防已黄耆湯を用いる。

体力のある場合[実証]

・大柴胡湯・季肋部に抵抗感があり腹部の充実した者に用いる。

・防風通聖散・太鼓腹で便秘があり肥満のある者に用いる。

体力ふつうの場合[中間証]

・桂枝茯苓丸・月経不順、のぼせ、?血の症状のある場合に用いる。

体力のない場合[虚証]

・防已黄耆湯・色白で、皮膚が水っぽいタイプの肥満症に用いる。

〔症例〕44歳の女性、身長152cm、体重69kg。

気管支喘息のステロイドホルモン療法を受けたためか、最近12年間で13kg体重が増加した。漢方薬のやせ薬を希望されて来院した。検査の結果、肝機能障害や高脂血症があり、大柴胡湯と桂枝茯苓丸の合方を処方した。体重は2ヵ月間で68kgに減量した。3ヵ月間で66kgに減量、5ヵ月間で61kgに減量し、BMIも30から26に改善した。現在も治療継続中である。

〔本例の服薬指導〕大柴胡湯と桂枝茯苓丸が処方されており、実証であろうと考えられる。大柴胡湯は最も強い柴胡剤であり、柴胡剤の副作用の間質性肺炎を起こすことがあり、大柴胡湯を服用中に、咳や息切れなどの症状の出現の有無に注意が必要である。大柴胡湯と桂枝茯苓丸の合方はやせ薬としてよく用いる組み合わせであるが、急激にやせたり、だるくなったりする時は医師に相談するように説明する。