最新のガン治療の手段について

1)放射線治療

1895年レントゲン博士が放射線を発見して以来、1896年に咽頭ガンにX 線を用いた治療が行われ、1899年に皮膚がんに対してX 線を用いた治療が行われています。1898年にキューリー夫妻によりラジウムが発見され、1901 年からラジウムでがんを治療する試みが行われ、ラジウム針などで直接病変部に留置する小線源治療が行われてきました。現在では、小線源治療として前立腺ガンなどの治療手段として行われています。1950年代から、コバルト60のガンマ線を用いて、放射線をガンに集中的に照射することが可能となりました。このガンマ線は、現在ではガンマナイフという装置に使われています。現在、一般に体外照射に使われているのはリニアック(線形加速器)と呼ばれる装置で、リニアックによってからだの深い部位のガン治療が可能となりました。さらに、リニアックの登場によって、定位放射線治療(さまざまな方向からがんのある部位に集中させて放射線をあてる方法)や強度変調照射法(コンピュータ制御により放射線強度を部分的に変化させて腫瘍部分のみに放射線を集中する新技術)が開発され、からだのより深い部分にあるガンを安全に治療できるようになりました。治療成績は大きく向上し、いままで治せなかったガンも治せるようになりました。しかしながら、 このような治療の進歩によって、放射線治療を行っても、効果のないガンが存在することが明らかとなりました。従来の放射線治療で効果の無いガンとしては、腺ガン、肉腫、悪性黒色腫などがあります。このような従来の放射線治療で難治なガンに対して登場してきたのが、粒子線治療です。粒子線とは陽子線や重粒子線のことで、最大の特徴は、粒子が体内で止まる直前に高い線量を与えることができる点です。重粒子線はさらに、ガンの殺傷効果がエックス線の3倍と他の放射線に比べて強いために、これまでは治癒させることのむずかしかった肉腫や悪性黒色腫など効果があるのではないかと期待されてきました。日本では、1994年、放射線医学総合研究所で重粒子線による治療が開始されました。2009年2月までに4,504人治療した結果、頭頸部がん、前立腺がん、肝臓がん、肺がん、骨軟部腫瘍など多くの腫瘍に優れた効果があることが分かりました。2003 年11 月からは、これらのがんに対して先進医療としての承認がなされました。

放射線治療の原理としては、放射線を照射すると、細胞やDNAは種々の程度の損傷を受けますが、分裂の盛んなガン細胞には多く損傷を与えることが知られています。放射線療法の利点は、患者に与える負担が少なく、治療を受ける患者の年齢や体力などの制約も余りなく、治療後の機能も温存されるということてす。放射線治療の副作用は、照射後早い時期に起こるものは、皮膚の軽い火傷、脱毛、放射線宿酔(吐き気や嘔吐)などがあります。放射線治療後1、2年して起こるものは皮膚の潰瘍、消化管出血があります。

ここでは、重要な放射線治療としては、リニアック、ガンマナイフ、トモセラピー、重粒子線治療、陽子線治療などがありますので、簡単に解説をいたします。

(1)リニアック

放射線治療用に用いられる加速装置で、電子を高速に加速して金属ターゲットに当て、X線を発生させ、発生したX線や電子線を腫瘍に当てて腫瘍細胞内の遺伝子(DNA)にダメージを与え、腫瘍を破壊するものです。放射線治療によって、腫瘍を破壊して治療したり、腫瘍による痛みなどの症状を緩和することができます。 リニアックの長所は高いエネルギー のX線や電子線の照射が容易に行うことができること、装置の精度が高いこと、大照射野の照射が可能であることです。リニアックは最もよく普及している放射線治療の装置です。

(2)ガンマナイフ

ガンマナイフとは一定の部位に対して放射線治療を行う放射線照射装置の一つです。装置は、201個のコバルト60の線源をヘルメットのような形状に並べ、これらの線源を精

密にコントロールし、病変部にピンポイントでガンマ線を集中照射するものです。個々の線源からのガンマ線は弱いのですが、多くの線源から病変部分に照射するので、病変部に対しては大きな線量となり、治療効果を上げることができます。健康保険の適用となっています。主な適応は、転移性脳腫瘍、脳動静脈奇形です。

(3)トモセラピー

トモセラピーは外観は大型のCTのような構造をしていて、CT撮影装置と小型の直線加速器が搭載され,患者の乗ったベッドが移動しながら、患者の周りを回転しCT撮影と放射線治療を同時に行うことができる装置です。全く新しい放射線の治療システムであり、高い照射精度,正常組織への線量軽減を現実していて、 直線加速器から発生したX線をコンピュータ制御で、患者の周りを回転して照射することができます。最小6mm×625 mmのビームの束を回転して照射することで,正確かつ高精細な照射を広範囲にすることができ、複雑な形の病変や複数のガン組織を正確に照射することが可能です。多発性の病変を30分程度の短時間で、入院する必要もなく行うことができることが最大の利点です。主な適応は、前立腺癌、脳腫瘍 、転移性骨腫瘍などです。とくに、転移性骨腫瘍については、従来の放射線治療ではたいへん治療困難でしたが、トモセラピーにより、広範な照射野を得ることができるようになったため可能となりました。アメリカの医療機器メーカーのトモセラピー社が2003年に開発したものです。一部健康保険の適応となっています。

(4)重粒子線治療

シンクロトロン(同期加速器)などの加速器を使って、炭素の原子核を加速し、がんに集中して照射する治療法です。この治療の特徴は粒子が運動を停止する直前に最大のエネルギーを放出するという性質を利用し、腫瘍内部で粒子が最大のエネルギーを放出するようコントロールされています。重粒子線を用いた放射線治療は、従来のX線による放射線治療に比べて、ガンの殺傷効果が強く(X線の約3倍のガン細胞を殺す効果がある)かつ、正常細胞へのダメージが少ないことが特徴です。放射線医学総合研究所のデータでは、1994年から様々な部位のガンに対して臨床試験が開始され、2009年2月までに治療した症例数は4,504症例です。主な対象疾患は、頭頸部腫瘍、 脳腫瘍、頭蓋底腫瘍、肺癌、肝癌、前立腺癌、食道癌、骨軟部腫瘍、子宮癌、直腸癌術後骨盤内再発、膵臓癌、眼球腫瘍です。とくに従来のX線治療の適応とはなりにくい骨軟部の肉腫や頭頸部の悪性黒色腫などの放射線抵抗性腫瘍に対しても良好な成績を得ることに成功し、手術以外に有効な治療が存在しなかったこれらの腫瘍で、高い効果をもつ治療法を確立できたことで、治療法の選択肢が広がりました。治療には疼痛がなく、治療期間も短期間で行うことができます。(肺ガン、肝ガンは1週間、前立腺ガンは1か月間)現在、日本では、放射線医学総合研究所重粒子線医科学センターと群馬大学重粒子線医学研究センター、兵庫県立粒子線医療センターで治療可能です。現在のところ治療費用は、保険適応外ですので、約314万円程度かかります。

(5)陽子線治療

陽子線治療とは、 水素の原子核である陽子を光速近くまで加速することによりガン組織を障害する放射線治療である。実際には、陽子を、サイクロトロンやシンクロトロン(同期加速器)などの加速器で加速して、ガン組織に照射します。陽子線は、限局した標的へ高線量を均一に照射が可能であることが特徴で、正常組織の障害の程度は軽微です。陽子線治療の適応は、脳腫瘍、頭頸部ガン、肺ガン、食道ガン、肝臓ガン、前立腺ガン、直腸ガン骨盤内再発例などが主な適応です。現在、国内では、国立がん研究センター、筑波大学陽子線医学利用研究センター、静岡県立がんセンター、兵庫県立粒子線医療センター 、若狭湾エネルギー研究センター、南東北がん陽子線治療センターの6施設で陽子線治療が行われています。陽子線は、重粒子線に比べて照射時のエネルギーが弱いのですが、陽子線施設の建設費用は、重粒子線施設よりも安く建設することができるという利点があります。現在の陽子線治療の費用は、約290万円程度です。

〔コラム〕

ハンゲ (半夏)Pinelliae Tuber

〔基原〕サトイモ科のカラスビシャクPinellia ternata Breitenbach (Araceae)のコルク層を除いた塊根である。〔効能〕①去痰鎮咳作用、②鎮嘔作用〔解説〕吐き気を止める効果が優れています。小青竜湯( 鎮咳)、小半夏加茯苓湯(つわり、嘔吐)に配合されます。

〔用量〕3~8gを用いる。

2)抗ガン剤

抗ガン剤の歴史は1940年代にマスタードガスから応用されたナイトロジェンマスタードを初めてホジキン病の治療に用いたことから始まります。以後,ガン化学療法は飛躍的進歩をとげ,不治の病とされてきた白血病も治癒できるようになり、それまでは外科手術と放射線療法のみの治療手段しかなかったガンの治療法において、化学療法を組み合わせることによって治療成績の向上がみられるようになりました。1960年代にはサイクロフォスァミドをはじめとするアルキル化剤が、70年代には抗がん性抗生物質であるドキソルビシン、80年代にはシスプラチンが登場しました。90年代にはタキサン製剤、オキサリプラチン、イリノテカンなどの薬剤が登場して、治療成績が一段と向上しました。現在、用いられている抗ガン薬を分類すると、トポイソメラーゼ阻害薬、白金製剤、代謝拮抗剤、微小管作用薬、アルキル化剤 、抗ガン性抗生物質などがあります。以下、簡単に解説します。

(1)トポイソメラーゼ阻害薬

1966年、アメリカのウォールらによって中国原産の喜樹(Camptotheca acuminata)からカンプトテシンが抽出、単離され高い抗腫瘍活性を有することが発見されました。アメリカ国立がん研究所においてガン治療薬としての開発が進められましたが、臨床試験において骨髄抑制と出血性膀胱炎のために開発は中止となりました。その後、カンプトテシン誘導体の合成研究進められていく中で、1983年、日本のヤクルト中央研究所においてカンプトテシンの活性を高め、毒性を軽減したイリノテカンが合成されました。DNAのらせん制御をする酵素には、Ⅰ型トポイソメラーゼと、Ⅱ型トポイソメラーゼがありますが、イリノテカンは、Ⅰ型トポイソメラーゼを阻害して、DNAのらせん制御を阻害し、DNAの転写や複製を阻害してガン細胞を障害します。副作用としては、下痢と骨髄抑制があります。イリノテカンによる下痢に対して、半夏瀉心湯が効果があります。イリノテカンは小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、再発胃ガン、大腸ガンなどに用いられます。

(2)白金製剤

1965年、ローゼンバーグらは、電場の大腸菌に対する影響を調べている時に、偶然に白金電極付近で大腸菌の増殖が抑制されているのを発見しました。その後、白金製剤のシスプラチンが高い抗腫瘍活性を有することが明らかになり、開発が進められましたが、強い腎毒性のため、一時開発が中止されました。しかし、大量の水分負荷と利尿薬の併用する方法により腎障害が予防され、承認市販されました。また、1970年代、日本の喜谷(きだに)らによって、新しい白金製剤のオキサリプラチンが合成されました。アメリカ国立がん研究所における評価の結果、大腸ガンに強い抗腫瘍活性を有することが確認されました。オキサリプラチンは、フランスにおいて臨床開発が進められ、大腸ガンに対する有用性が確認されました。作用機序としては、白金製剤は二本鎖DNAと結合して細胞毒性を引き起こします。副作用としては腎毒性、悪心,嘔吐があります。シスプラチンは、悪性リンパ腫、小細胞肺ガン、非小細胞肺ガン、食道ガン、子宮ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、膀胱ガン、頭頚部ガンなどに有効です。オキサリプラチンは大腸直腸癌に有効です。FOLFOXという優れた投与法があります。特に副作用として末梢神経障害があります。

(3)代謝拮抗剤

代謝拮抗剤 はDNAの部品であるプリンやピリミジンと類似した物質であり、(細胞周期の)S期にDNAへのプリンやピリミジンの取り込みを阻害して、それにより、DNA合成を抑制します。メソトレキセート(MTX) 5-フルオロウラシル (5-FU)が重要です。

a)メソトレキセート(MTX)

メソトレキセートは、1948年レダリー研究所において葉酸代謝拮抗剤として開発されました。葉酸は細胞の複製に必須の物質であり、メソトレキセート(MTX)は構造的に葉酸に類似しており、DNA合成を抑制し、結果としてガン細胞を障害します。メソトレキセートは、急性白血病、絨毛ガン、乳ガン、骨肉腫、軟部肉腫、悪性リンパ腫に用いられます。副作用は、白血球減少、肝臓障害、口内炎、腎臓毒性、心臓毒性があります。

b) 5-フルオロウラシル (5-FU)

5-フルオロウラシルは、1956年、ドシンスキーらにより合成された抗ガン剤です。5-フルオロウラシル は、DNAの部品であるウラシルに類似しており、結果として、DNA合成を抑制し、ガン細胞を障害します。 5-フルオロウラシルは、 消化器がん、乳ガン、子宮ガン、膵臓ガンに用いられます。副作用は、白血球減少、悪心嘔吐、下痢、口内炎、色素沈着があります。

(4)微小管作用薬

パクリタキセル (タキソール) は、1971年に太平洋イチイ (Taxus brevifolia) の樹皮抽出液から単離された抗ガン剤です。ドセタキセル(タキソテール)は、1984 年、ヨーロッパイチイ(Taxus baccata )の針葉抽出物である10-デアセチルバッカチンを 前駆物質として、に半合成された抗ガン剤です。細胞分裂の仕組みは、微小管が形成され、細胞のゴルジ体の構造が崩れ始め、核膜は崩壊し、微小管が染色体に結合します。赤道面に染色体が集まり、染色体が極へと移動すると、分解されていたゴルジ体や核膜が再形成され、分裂溝ができて、細胞分裂が完成します。つまり、細胞分裂において、微小管はたいへん重要な働きをしているわけですが、パクリタキセルやドセタキセルは、この微小管に結合して細胞分裂を阻害し、ガン細胞を死へと導きます。他の微小管作用薬としては、パクリタキセル、ドセタキセル以外に、ニチニチソウ由来のビンクリスチン、ビンブラスチンが代表です。パクリタキセルやドセタキセルは、非小細胞肺ガン、乳ガン、胃ガン、子宮ガン、卵巣ガンなどに用いられます。パクリタキセルの副作用は、骨髄抑制と末梢神経障害が、ドセタキセルの副作用は、骨髄抑制と浮腫があります。ビンクリスチン、ビンブラスチンの副作用は、末梢神経障害、骨髄抑制、イレウスがあります。

(5)アルキル化剤

アルキル化剤のナイトロジェン・マスタードは、最も古い抗ガン剤です。これは、第一次世界大戦に使用された毒ガスのイペリットの細胞毒性に着目して合成されたものです。アルキル化剤はDNAと細胞内タンパクと反応して結合して、DNA複製とRNAへの転写が阻害されます。その結果として、ガン細胞を障害します。重要なアルキル化剤の代表として、シクロホスファミド(エンドキサン)があります。シクロホスファミドの副作用は、出血性膀胱炎があります。

(6)抗ガン性抗生物質

ドキソルビシン(アドリアシン)は、1967年、イタリアのファルミタリア研究所のアルカモネらにより放線菌の培養液から発見された、抗ガン性抗生物質です。ガン細胞のDNAのらせんに侵入して、DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼの反応を阻害して、ガン細胞のDNAやRNAの合成を障害することにより抗腫瘍効果を示します。同じ系統の薬としてダウノルビシン(ダウノマイシン)があります。広範囲のガンの治療に用いられます。ダウノルビシン、ドキソルビシンは、悪性リンパ腫、肺ガン、胃ガン、大腸ガン、肝臓ガン、膵臓ガン、胆のうガン、膀胱ガン、骨肉腫、急性骨髄性白血病に用いられます。副作用は、心臓毒性があります。

〔コラム〕

ブシ (附子) Aconiti Tuber

〔基原〕キンポウゲ科(Ranunculaceae)のハナトリカブトAconitum carmichaeli Debeauxその他同属植物の塊根

〔効能〕①身体を温める作用 ②鎮痛作用

〔解説〕新陳代謝を高め、冷えを改善する効果がある。陰証の極致で瀕死の場合に救急の手段として用いる。四逆湯(身体を温める作用)、附子湯(鎮痛作用)に配合される。関節の疼痛、腰痛、下痢症状に用いる。アコニチンaconitine、メサコニチンmesaconitine、ヒパコニチンhypaconitineなどのアルカロイドを含み、猛毒性であるが加熱減毒して用いる。

〔用量〕0.4 ~6 gを用いる。

3) 分子標的薬

理想的なガンの治療薬は、ガン細胞のみに作用して正常細胞には作用しない薬です。実際には、ガン細胞に障害はするが、正常細胞にはできるだけ障害が少ない薬が作られています。正常細胞の障害をできるだけ少なくするためには、ガン細胞に特異的な、ガンの生存に必須な部分を、薬の攻撃の標的として考えています。ガン細胞に特異的な、ガンの生存に必須な部分としては、ガンの基本な悪性の性質である、無限増殖、分裂、転移、浸潤、血管新生、ガン細胞の自殺装置(アポトーシス)の停止などです。 これらのガン細胞の性質は、刺激を伝える独特の情報伝達のシステム(シグナル伝達経路)が存在することにより、ガン細胞の生存に必要な情報が伝えられています。この情報伝達のシステムの要所に位置するのが、チロシンキナーゼという細胞表面の受容体や細胞膜に接した酵素です。このチロシンキナーゼを阻害する作用のある化学物質や細胞表面の受容体を阻害する物質が、 分子標的薬として、1990年代末から一般的に使用されるようになりました。ここでは、現在よく使用されている リツキシマブ(リツキサン)、イマチニブ(グリベック)、ゲフィチニブ(イレッサ)、トラスツズマブ(ハーセプチン)について解説します。

リツキシマブ(リツキサン)

リツキシマブは、1997年にアメリカで承認された、はじめてのガン適応の抗体医薬です。リツキシマブは、B細胞の表面の抗原であるCD20に反応するIgG型抗体です。CD20は、95%以上のB細胞リンパ腫で存在する抗原です。リツキシマブは、B細胞リンパ腫の表面の抗原であるCD20に反応して結合し、結果として、ナチュラル・キラー細胞などによって、リツキシマブとB細胞リンパ腫の結合したものは破壊され、B細胞リンパ腫の治療が行われるわけです。リツキシマブは、B細胞性非ホジキンリンパ腫やB細胞性白血病、あるいは関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療に使用されます。副作用は、肺障害、心臓障害、皮膚粘膜眼症候群があります。

イマチニブ(グリベック)

95%の慢性骨髄性白血病や5~20%の急性リンパ性白血病には、特徴的なフィラデルフィア染色体というものが存在します。このフィラデルフィア染色体では、bcr-abl遺伝子が存在していて、このbcr-abl遺伝子からBcr-Ablタンパク質が作られます。このBcr-Ablタンパク質は、白血病細胞の情報伝達のシステムの要所に位置するチロシンキナーゼでもあります。つまり、このBcr-Ablタンパク質は、白血病細胞の生存に最も重要なタンパク質であり、かつ酵素なのです。このBcr-Ablタンパク質の重要性が明らかになった時点から、Bcr-Ablタンパク質を標的とした抗ガン剤の開発が始まりました。結果として、イマチニブが作られました。Bcr-Ablタンパク質はATPと結合することによって白血病細胞の情報伝達のシステムが動きだし、白血病細胞は生存することが可能となるのですが、イマチニブは、Bcr-Ablタンパク質のATP結合部位に先に結合して、白血病細胞の生存に必要な情報伝達を停止させてしまい、結果、白血病細胞が死滅してしまうのです。2001年、アメリカと日本で承認され、現在広く用いられています。イマチニブは、慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)、消化管間質腫瘍の治療に使用されます。副作用は、催奇形性、悪心、嘔吐、眼瞼浮腫、湿疹、筋肉のけいれんなどがあります。

ゲフィチニブ(イレッサ)

皮成長因子受容体(EGFR)は細胞の表面に存在して、細胞の内部から細胞の外部に突き出たような構造をしたタンパク質です。細胞外の部分は上皮成長因子受容体であり、細胞内の部分は、チロシンキナーゼというガン細胞の生存に必須の酵素です。ガン細胞の細胞外の部分の上皮成長因子受容体に上皮成長因子が結合すると細胞内の部分のチロシンキナーゼという酵素の反応がおこり、チロシンキナーゼにATPが結合することによって情報伝達のシステムが動きだし、ガン細胞は生存することが可能となります。ゲフィチニブは、細胞内のチロシンキナーゼのATP結合部位に先に結合して、情報伝達のシステムを停止させてしまい、ガン細胞は生存することができなくなります。ゲフィチニブは、非小細胞肺癌の治療に使用されます。副作用は、間質性肺炎です。

トラスツズマブ(ハーセプチン)

トラスツズマブは、抗HER2抗体です。HER2(ハーツー)は、上皮成長因子受容体の一つで、約25%の乳ガンで過剰に発現しています。HER2は、上皮成長因子受容体ですから細胞の表面に存在して、細胞の内部から細胞の外部に突き出たような構造をしたタンパク質です。HER2は、乳ガン細胞の増殖、悪性化関係するタンパク質です。乳ガン細胞の表面で、HER2タンパク質2つ結合すると情報伝達のシステムが動きだし、乳ガン細胞は生存することが可能となります。トラスツズマブは細胞表面のHER2タンパク質に対する抗体そのものです。トラスツズマブがHER2タンパク質と結合すると、乳ガン細胞の情報伝達のシステムは停止してしまい、乳ガン細胞は生存することができなくなります。トラスツズマブは、乳癌の治療に使用されます。 副作用は、発熱、出血、貧血、心臓障害などがあります。

〔コラム〕

ダイオウ (大黄)Rhei Rhizoma

〔基原〕タデ科のダイオウ Rheum palmatum Linne,Rheum tanguticum Maximowicz,Rheumofficinale Baillon,Rheum coreanum Nakai又はそれらの種間雑種の根茎である。

〔効能〕①瀉下作用、②清熱作用、抗炎症作用

〔解説〕通常、便秘によい効果があります。大黄甘草湯(瀉下)、大柴胡湯(瀉下、抗炎症作用)、大黄牡丹皮湯(瀉下、抗炎症作用)、茵ちん蒿湯(清熱、抗炎症作用)に配合されます。一般的にはエキス製剤、生薬いづれも少量から用いるとよい。大腸ガンによるひどい便秘などに、大黄末として1~2グラム用いることができます。〔用量〕1~5gを用いる。

4)ガン免疫療法

19世紀の末に、アメリカの外科医のウィリアム・コーリーは、骨肉腫患者が細菌感染による高熱のあと、腫瘍が自然に縮小した事実に注目して、細菌を腫瘍周辺に接種して発熱を引き起こさせ、ガンを治療する方法を考案しました。これが、「コーリーの毒」と呼ばれガン免疫療法の先駆けとされています。BCG療法として現在も広く行われている治療法へとつながっています。1980年代に、ローゼンバーグらよって、患者さんからリンパ球を採取して、体外でリンパ球を培養し活性化したリンパ球を体内に戻す活性化自己リンパ球療法が開発されました。1991年には、ブーンらによって、ヒト悪性黒色腫のガン抗原の遺伝子が同定され、ガンペプチドワクチン療法の開発へとつながっていきました。現在、実際に行われているガン免疫療法には、活性化自己リンパ球療法、樹状細胞療法 、ガンペプチドワクチン療法が主要なものです。簡単に解説をします。

(1)活性化自己リンパ球療法

1980年代に、 ローゼンバーグらによって、患者さんからリンパ球を採取して、当時 T細胞刺激因子として知られていたインターロイキン2(IL-2)を用いて、試験管内でリンパ球を培養したところ細胞障害活性の強い細胞へと増殖分化することが発見されました。この原理を用いて、患者さんから血液を取りリンパ球を分離し、体外(試験管内)で約2週間培養を行い、リンパ球に対して、インターロイキン-2(IL-2)と抗CD3抗体で刺激して、活性化増殖を行います。活性化したリンパ球を再び、患者さんへ点滴を通して戻す治療方法です。この方法の利点は先端医療として多くの施設で行われており、ガンに対するエビデンス(証拠)があり、方法が確立していることです。費用は約20万円(1回)位です。

(2)樹状細胞療法

樹状細胞療法は、患者さんの血液から樹状細胞の元になる細胞(単球)を取り出します。この単球を培養し樹状細胞に誘導した後、樹状細胞にガン抗原を導入して、ガンを攻撃する能力を獲得させた樹状細胞を皮内注射で患者さんの体内に戻す方法です。この治療方法の歴史は浅いので評価はこれからです。

(3)ガンペプチドワクチン療法

1991年、ブーンらによって、ヒト悪性黒色腫のガン抗原の遺伝子が同定され、MEGAと命名されました。このブーンらの方法を用いて、これ以降、多数のガンに特異的な抗原( ガンに特異的な蛋白)が発見されるようになりました。この得られたガンに特異的な抗原を「ガンの目印」として用いてガンに対する免疫を作りだすことが、現実に可能となってきました。原理はやや難解ですが、、樹状細胞の中に、ガンに特異的な蛋白や蛋白の断片であるペプチドが取り込まれ、細胞内でHLA(ヒト白血球抗原)とペプチドが適合すると、ペプチドはHLA分子と結合し、細胞内を移動して、細胞の表面の抗原(すなわちガン抗原)として提示されます。これで、ガンの目印が提示されたことになり、このガンの目印を、細胞障害性Tリンパ球が認識して、この目印を持つ細胞(ガン細胞)を、この細胞障害性Tリンパ球が攻撃して破壊することになります。これがガンペプチドワクチン療法の原理です。現在、東京大学医科学研究所を中心に、札幌医大、岩手医大、福島医大、国立がんセンター、東京女子医大、山梨大学、大阪大学、久留米大学などで現在研究が行われています。たいへん有望な治療法と考えられています。

〔コラム〕

ブクリョウ (茯苓) Poria

〔基原〕サルノコシカケ科のマツホドPoria cocos Wolf(Polyporaceae)の菌核で通例、外層をほとんど除いたもの

〔効能〕①利尿作用 ②健胃作用

〔解説〕苓桂朮甘湯(利尿作用)、四君子湯(健胃作用)に配合される。十全大補湯にも配合され、抗ガン作用が期待されています。

〔用量〕3~6gを用いる。

〔コラム〕

ヨクイニン (よく苡仁) Coicis Semen

〔基原〕イネ科ハトムギCoix lacryma-jobi L. の種皮を除いた種子

〔効能〕①利尿作用 ②排膿作用

〔解説〕麻杏よく甘湯、参苓白朮散(利尿作用)に配合されます。いぼ(疣)に効果があり、抗腫瘍作用があります。

〔用量〕8~16gを用いる。

5)サプリメント

現在、多数のサプリメントが市販されていますが、サプリメントを選ぶ要点は、信頼できる会社の物を選択することです。製品に会社の所在地や連絡先、電話番号などが記載されていない物は購入してはいけません。友人、知人から勧められて購入して、領収書などの無いものは、購入しない方がよいでしょう。特に、海外から個人輸入するサプリメントは、要注意です。製品のトラブルで泣き寝入りすることが多く、責任の所在が明らかでないことがあります。サプリメントは、一度に多くの製品を購入したり摂取しない方がよいでしょう。理想的には、一種類ずつのサプリメントを摂取するのがよいでしょう。藁をもすがりたい患者さんの心理につけ込む悪徳業者が大勢いることを忘れてはいけません。サプリメントとして、よく知られているアガリスク、メシマコブ、カワラタケ、霊芝、サメ軟骨、フコイダン、プロポリス、AHCCについて簡単に紹介します。

(1)アガリクス

アガリクスは、ブラジル・サンパウロ郊外に自生する、マツシュルーームに似た食用茸です。アガリクスに含まれるβ-グルカンに抗ガン作用があるといわれています。アガリクスは、1960年代、ブラジルの現地で暮らす住民たちに成人病が極端に少なく、長寿であることに着目し、常食としているアガリクス茸が発見されました。1980年、アガリクスから高分子の多糖類(β-D-グルガン)を抽出され、β-D-グルガンに抗ガン活性があることが報告されました。アガリクスの作用によって、腫瘍壊死因子α(TNFα)という生理活性物質が産生され、腫瘍壊死因子αは、腫瘍を壊死させたり、リンパ球を刺激して免疫力を高める作用があるとされています。

(2)メシマコブ

メシマコブPhellinus Linteusは漢方では桑黄(そうおう)と呼ばれるタバコウロコタケ科のキノコです。日本では、長崎県の女島で自生していたことから、メシマコブ(俗称)と呼ばれたのが、その名の由来とされています。メシマコブにはβ-D-グルカンが含まれており、免疫を高める効果があるとされています。韓国では、治療薬として認可されています。幾つかのメーカーから市販されていますが、上場企業のものが一応信頼できます。

(3)カワラタケ

カワラタケ(瓦茸、Trametes versicolor)はヒダナシタケ目タコウキン科のキノコです。枝や倒木などに多数生えています。何人かの著名な漢方医は、ガン患者に、十全大補湯などの補剤とともに用いて、有効性を認めています。カワラタケの菌糸体より得られる多糖類はクレスチンというと呼ばれる抗悪性腫瘍剤です。

(4)霊芝

霊芝Ganoderma japonicum は、サルノコシカケ科に属するキノコで、別名としてマンネンタケと呼ばれます。霊芝の成分としては、β-グルガンが含まれています。免疫力を増強する作用があるとされています。免疫力増強作用、抗がん作用が報告されています。免疫力増強作用に関しては、ナチュラルキラー細胞の活性を高めることが知られています。

(5)サメ軟骨

サメはがんを発症しないという説があり、サメの軟骨は人においてもがんを防ぐのではないかといわれてきました。しかし、その後、サメにも腎臓がん、リンパ腫、軟骨腫が発見されました。サメ軟骨の成分から血管新生阻害物質が発見されています。ガン組織は、分裂し増殖して大きくいきます。その過程でガン組織に栄養する血管を大量に作ります。この血管新生を邪魔する物質によりガン組織の血管新生ができなくなれば、ガン組織は死に至ります。副作用は、吐き気、嘔吐などがあります。

(6)フコイダン

フコイダンとは、コンブやワカメ、モズク等の海藻類に含まれるヌメリ成分の一つです。「フコース」と呼ばれている糖に硫酸基が結合したものが、数多く連結したものの総称として、「フコイダン」と呼ばれています。フコイダンにはがん細胞のアトポーシス誘導作用があるという報告があります。アポトーシスとは、細胞が自滅していくことを言います。人の体内では、古い細胞や傷ついた細胞は正常の生命活動の障害になるので、古い細胞や傷ついた細胞は自然に死ぬように遺伝子から指令が伝えられます。これがアポトーシスです。通常ガン細胞は、アポトーシスをすることなく無限に細胞は分裂し、増殖します。フコイダンにより、ガン細胞がアポトーシスを引き起こすように作用するというようです。また、担がんマウスに、めかぶの フコイダンを経口投与したところ、生存期間が延長し、正常マウスに投与するとナチュラルキラー(NK)活性やT細胞のIFN-γ産生が高まったという報告があります。しかし、人においての安全性、有用性についての報告はありません。個人的な経験ですが、前立腺ガンの患者に投与して一時的に腫瘍が縮小して全身状態が改善したという症例を経験しました。

(7)プロポリス

プロポリスは、ミツバチが樹木の特定部位(新芽、蕾、樹皮など)から採取した樹液や色素などに、ミツバチ自身の分泌液を混ぜてできたもので、抗菌作用があるといわれています。今のところ、プロポリスの安全性に対する信頼できるデータはありません。副作用としては、喘息を悪化させる可能性があり、外用で用いた場合、接触性皮膚炎が多発しています。筆者もプロポリスを服用して重症の皮膚中毒疹になった患者を診察した経験があり、慎重な使用が望まれます。

(8)AHCC

AHCCはActive Hemi Cellulose Compound の略で、培養されたシイタケの菌糸体から抽出されたもので、アセチルα-グルカンという多糖類が含まれています。ガン細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞の活性を高め、体の免疫システムを強化する働きがあるとされています。乳がん移植したラットにAHCCとUFT(テフガールとウラシルの合剤)を併用し治療効果を検討したところ、NK細胞とマクロファージが活性化され、ラット乳癌の原発巣の増殖と転移を抑制し、それはAHCCがPSKやレンチナンなどのBRMと同様に、宿主の自然免疫防御機構を回復させたかあるいは増強させたことによるという報告があります。副作用は軽度な吐き気が報告されています。重篤な副作用はないとされています。

〔コラム〕

シコン (紫根) Lithospermi Radix

〔基原〕ムラサキ科のムラサキLithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini(Boraginaceae)の根

〔効能〕①抗炎症作用

〔解説〕紫雲膏(痔核、熱傷)、紫根牡蛎湯(乳ガン)に配合される。腫瘍性疾患に3g程度加味することがある。

〔用量〕2~4gを用いる。

参考文献


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