ガンの食養生

1981年、イギリスの疫学者ドルは、人のガンの発ガン因子として、食物と栄養によるもの(35%)、タバコ(30%)、職業(4%)、アルコール(3%)というデータを発表しました。ガンを食養生を考える上で食事がいかに大切なことかを示しています。同様のデータがハーバード大学からも出ています。ガン予防を意識した食事に変更して、食習慣を変えることにより、ガンが予防できる可能性が主張されるようになりました。

食生活、生活習慣を変えると、ガンに効果が本当にあるのでしょうか。実は、アメリカで効果があることが証明されました。1990年以降、アメリカでは、ガンのりかん率が減少しはじめたのです。国家を挙げて、ガン予防が期待できる化学物質を含む食品のリストを作成し(『デザイナーフーズ』)、1日5皿以上の野菜や果実の摂取を奨励し、もちろん禁煙も進めた結果、ガンのりかん率の減少となって現れたと考えられています。日本においては、胃ガンが減少し、大腸ガン、前立腺ガン、乳ガンが増加しています。この理由は、1950年代から始まった、脳卒中予防のために推進された減塩食のために、食塩摂取量が減少し、その結果胃ガンが減少したと考えられています。また、食生活の欧米化によって、肉類など動物性脂肪を多く摂取し、野菜や海藻類などの食物繊維の減少などが関係していると考えられています。

食品による、がんの予防を考える上で重要なキーワードは、抗酸化作用ということです。抗酸化とは、酸化に抵抗することですが、酸化とはどのようなことでしょうか。人間は酸素を体内に取り入れて呼吸をして生きています。取り入れられた酸素は、体内で、様々な変化をして人の生存に利益を与えてくれます。ところが酸素が人に対して益をもたらすだけでなく、体内で化学変化を起こして細胞に有害な影響を与える「酸化」を引き起こすことがあります。例えば、鉄は空気中では酸素と化学変化を起こして錆(さび)が生じ、腐食してしまいます。細胞のタンパク質やDNAにおいて、このような「酸化」が生じると、タンパク質が変性したり、DNAに変性が起こります。その結果、細胞の正常な増殖のしくみが障害され、ガンが発生することがあります。人の体内において、いかに「酸化」を防ぐかが重要な問題なのです。

次に実際に、1990年にアメリカ国立ガン研究所で発表されたガンを予防する食品のリストをお示しいたします(『デザイナーフーズ』)。ガン予防に高い効果をもつとされる約40種類の植物性食品が発表されました。これらの食品を3つのグループA、B、Cに分けて、グループAが最もガンの予防効果が高く、グループBが2番目に予防効果があり、グループCが、3番目に予防効果があるとするものです。食品の選択の目安になります。

グループA

ニンニク、甘草、ショウガ、ニンジン、大豆、セロリ、キャベツ

グループB

玉ねぎ、お茶、ウコン、全粒小麦、玄米、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、トマト、ナス、ピーマン、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、亜麻(ヌメゴマ)

グループC

マスクメロン・バジル・カラス麦・ハッカ・キュウリ・アサツキ・ローズマリー、ジャガイモ・大麦、ブルーベリー、ラズベリー、クランベリー

グループAについて

ニンニクには、S-アリルシステイン、ジアリルスルフィドが含まれ、これらには抗酸化作用 があり、ガンの予防に効果があります。ニンニクはガンの予防効果が高いとされていて、前立腺ガンの発生を低下させるという報告がありますが、ワルファリンやアスピリンなどの血液凝固に関連する薬剤との併用は、薬の作用を強める可能性があり、注意が必要です。

甘草は、ほとんどの漢方薬に含まれる重要な生薬で、薬の副作用を予防します。

大豆には、強い抗酸化作用を有するイソフラボンが含まれています。

ショウガには、ショウガオール・ジンゲロールが含まれていて、これらには、抗酸化作用があり、ガンの予防に効果があります。また、ショウガには、血行を良くし、体を温める作用がありますので、免疫力を高める効能があります。

ニンジンにはβカロチン(黄色)が含まれ、強い抗酸化作用のあり、またαカロチンを含んでおりガン抑制効果があります。油を使って調理するとカロチンの吸収が良くなります。

大豆については、日本人は大豆をよく食べる国民ですが、日本では乳ガンや冠動脈疾患が少ないのは大豆を多く摂取するからではないかと言われています。大豆には、タンパク質や多価不飽和脂肪酸(大部分はリノール酸で、一部αリノレン酸です)が含まれます。多価不飽和脂肪酸は悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げ、糖代謝を改善して2型糖尿病のリスクを減らします。糖尿病があると、血液中は高血糖の状態でありガンのリスクも高まりますので、大豆によって、糖代謝を改善して、結果としてガンのリスクを減らすことができるのです。大豆には、食物繊維も多量に含まれていて、食物繊維は大腸ガンに効果があり、多価不飽和脂肪酸と同じ様に、脂質代謝と糖代謝を改善します。

セロリやキャベツにはビタミンCが多く含まれ、 抗酸化作用があり、ガンの予防に効果があります。キャベツに含まれるイソチオシアネートは、ニトロソアミンの活性化によるがんの発生を防ぐと言われています。

グループBについて

玉ねぎには、アリシンが含まれ、抗酸化作用があります。

お茶の成分のカテキン類はがん細胞の増殖を抑える効果を持つと言われます。

ウコンの主要成分であるクルクミンは、体内で強力な抗酸化物質に変わり、ガン予防効果を発揮します。

全粒小麦には、含まれる植物性化学物質の抗酸化作用より、ガン(胃ガン、大腸ガン、乳ガン、前立腺ガン)のリスクが低下すると言われています。

オレンジ、レモン、グレープフルーツには、ビタミンC、フラボノイド、カロテノイドが含まれ抗酸化作用があります。

ブロッコリーにはスルフォラファン、ビタミンCが含まれていて、これらには、抗酸化作用があり、ガン予防に効果があります。

カリフラワーには、抗酸化作用のあるビタミンCが含まれています。

トマトにはリコピン(赤い色素)が含まれ強い抗酸化作用があり、また、βカロチンも含まれています。

ナスには、ナスニンというアントシアニン色素が含まれ、抗酸化作用があります。

ピーマンには、ビタミンC、ビタミンEなどのガン抑制物質が含まれています。

グループCについて

メロンには、βカロテンが含まれており抗酸化作用があり、がん予防に効果があるといわれています。

キュウリにはビタミンC、ポリフェノールを含み抗酸化作用を有しています。

ブルーベリー、ビルベリー、ラズベリーなどはアントシアニンを含み、抗酸化作用を有していて、ガンの予防に効果があると言われています。

大麦には食物繊維が多く含まれ、大腸ガンに予防効果があると言われています。

玄米は稲から外側のもみ殻だけを取り除いたもので、食物繊維などを多くふくみ、大腸ガンの予防によいとされています。

シイタケ、シメジ、エノキタケ、マイタケ、キクラゲ、エリンギ、ナメコ、マッシュルームなどのキノコ類には、β-グルカン(免疫力を高める作用)が含まれるので、多量に摂取するとよいでしょう。

一般に、野菜は生で冷やして食べると身体を冷しますので、温めて食べるとよいでしょう。実際、熱を加えることによって野菜に含まれるポリフェノール、フラボノイド、βカロチン、ルティンは、細胞の外に溶け出して、体内に吸収しやすくなります。次に食養生の要点を挙げます

規則正しい食事

糖を余り摂取しない

冷たいものは取らない(身体は冷やさない)

過剰な塩分は取らない

脂肪は余り摂取しない。

腹8分がよい

大豆をよく食べましょう

肉より魚を取りましょう

肉や魚の焦げた部分には食べない

○規則正しい食事

規則正しい食事は、胃腸の正常な働きを維持する上でも、体内のインシュリンなどのホルモン環境を正常に保つ上でも重要です。

○糖を余り摂取しない

糖は、細胞の中で分解され、糖にふくまれるエネルギーを取り出して細胞の生命活動を維持しています。 1930年ドイツ人のオットー・ワールブルグは、ガン細胞においてこの糖の代謝過程が極めて亢進していることを発見しました。これはワールブルグ効果と呼ばれています。つまり、ガン細胞は、正常細胞に比べて約8倍のブドウ糖を吸収しています。この性質を利用してガンを検出するPET検査が行われています。具体的には、ラジオアイソトープを付けたフッ化デオキシグルコースを静脈注射して、ガンがあれば、このフッ化デオキシグルコースがガン組織に集まり、スキャナーで撮影します。これによってガンの有無を調べることができるわけです。つまり、糖はガンの栄養になるので過剰な摂取は控えるべきなのです。国立がんセンターによる研究では糖尿病歴がある男性は糖尿病がない男性に比べ、肝臓癌は2.24倍になり、糖尿病歴がある女性では、胃癌は1.61倍、肝臓癌は1.94倍になることが明らかになっています。やはり、糖がガンには良くないと思われます。

○冷たいものは取らない(身体は冷やさない)

冷えは様々な病気の原因であり、冷えは身体の免疫力を低下させます。人の生体の中では常に多くのガン細胞が発生していて、免疫のシステム(免疫監視機構)のよりガン細胞を除去しています。冷えによって身体の免疫力が低下し、免疫の監視機構の能力が低下すると、発生するガン細胞を除去できなくなります。野菜や果物を摂取すると、肺ガン、膀胱ガン、食道ガン、胃ガンのリスクを減らすと考えられていますが、生の冷たい野菜などは、身体を冷やす作用があります。野菜は、温めて調理して温野菜として摂取するのがよいでしょう。また、果物には、多量の糖が含まれていますので、これもガンの発育を手助けしますので、果物はほどほどにしておいた方がよいでしょう。

○過剰な塩分は取らない

塩分は胃がんの発ガン因子として重要なものの一つです。塩分濃度の高い食品を摂取すると胃の粘膜が傷害され炎症を起こし、細胞の再生の過程で発がんが起こると考えられています。

○脂肪は余り摂取しない。食事の欧米化によって、脂肪多く摂取する機会が増えてきました。とくに動物性脂肪を多く摂取すると、大腸ガンや乳ガンが増加することが知られていますので、動物性脂肪の取りすぎには注意しましょう。

○腹8分がよい

腹8分というのは、ガンに限らず、長寿の基本食と言われています。1930年代、マウスを用いた実験で、通常の8割の食事を与えると、20%寿命が延びることが証明されました。長寿遺伝子Sirt 1というものが知られていますが、カロリー制限によりこの長寿遺伝子Sirt 1が活性化され寿命が延びることが明らかとなっています。肥満女性では乳癌、子宮体癌、卵巣癌のリスクが高いことが知られ、肥満の男性では前立腺癌のリスクが高まっています。太り過ぎに注意して腹8分を維持しましょう。

○肉より魚を取りましょう。

肉には、動物性脂肪が多く含まれている場合があり、大腸ガンや乳ガンのリスクが高まります。また、サバ、サンマ、イワシなどにはエイコサペンタエン酸(EPA)が多く含まれガンの予防に効果があることが知られています。

○肉や魚の焦げた部分には食べない

焼肉や焼き魚などにできる焦げの部分には、発ガン性があることが知られています。肉や魚にふくまれているチロシンやトリプトファンなどのアミノ酸を加熱するとヘテロサイクリックアミンという物質が発生します。ヘテロサイクリックアミンには発ガン性があることが証明されています。

○衛生的な食環境にする

ピーナッツなどのカビは、アフラトキシンという発ガン物質が含まれて、肝臓ガンの原因と言われいます。胃粘膜に生息するヘリコバクター・ピロリ菌の感染は、胃・十二指腸潰瘍の発生とともに、胃がんの発生にも関係していることは間違いのない事実です。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染者と非感染者を内視鏡で経過観察したデータがありますが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染者からはガンが多発したが、非感染者からはガンの発生はなかったというものです。不衛生な食の環境では、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が高まる可能性があります。

〔コラム〕

ケイヒ (桂皮) Cinnamomi Cortex

〔基原〕クスノキ科Cinnamomum cassia Blume (Lauraceae)の樹皮又は周皮の一部を除いたものである。

〔効能〕①発汗作用 ②温補作用

〔解説〕桂枝湯(発汗作用)、小建中湯(温補作用)に配合され、菓子の材料に用いるシナモンです。ガン治療に頻用される十全大補湯に配合されています。体を温める効果があります。

〔用量〕2~5gを用いる。